MMT通信「にゅんさん、おメールありがとうございます。」

新連載開始!

薔薇マークキャンペーンは、2019年11月4日、MMTの創始者の一人であり命名者でもあるビル・ミッチェル教授をお招きしてセミナーを開催(当日の講演動画など報告ページはこちら)。

資料の翻訳などに協力してくれた、にゅんさん(Twitter: @erickqchan)と、松尾匡が、それ以降、MMTについてメールでやり取りを続けています。


(左は、にゅんさんのTwitterアイコンから拝借)

ミッチェル教授のブログの翻訳をはじめとしたMMTの紹介者のひとりで、在野のMMTerでもあるにゅんさん。松尾匡を「無能な味方」などとボロクソにしていましたが、今は文通の仲。
メールを薔薇スタッフ大石が拝見したところ、日本で最新のプログレッシブ側MMT討論とお見受けしたので月に数回程度の連載にすることにしました。

以下、記念すべき、レター第1章をお届けします。その後、編集後記を付けています。
レター第2章以降は、このページを入り口ページにして、バックナンバーを増やしていく予定です。

バックナンバー

2019
11/26 ●第1章「インターバンク金利」(このページ)

12/15 ●第2章「国債発行」 https://rosemark.jp/2019/12/15/mmt_nyunsan_o-email-c02/

 

 

レター第1章 Chapter1.

Letter from Nyun -01

 

松尾先生

こんにちは。
京都でお会いした、nyunです。

すぐに連絡すべきでしたが、遅くなってしまい申し訳ありません。
MMTの動きが急ですね。

自分も、ここは松尾さんのMMT理解を早めなければ、と居ても立ってもいられない気持ちで貴殿との議論だけはスタートしなければと思うようになりました。

ミッチェルが回答を始めていますが、貴殿のMMTへの質問を拝見し、私は私でうまく説明する方法があるように思っています。

例えば。

「投資は金利にあまり感応せず、金利以外のいろいろな要因でブレるので、それを金利で調整しようとすると金利が激しくブレることになり、民間に不確実性を与える。だから政策金利は固定するのが望ましい。こういう理解でいいか。 だとすると、この固定する値は名目金利か。名目ゼロ金利で固定するのが望ましいという理解でいいか。それはなぜか。景気が過熱してインフレを抑えるべき時にも、ゼロ金利で固定すべきとかんがえているのか。」

これは、「だとすると」以下がおかしいのです。
そもそも中央銀行が決めている金利は、インターバンク市場の誘導金利だけです。そして、「誘導金利を上下させることによる「金融政策」に何らかの良い効果が期待できるだろうか?、いやできない。」という順番なんですね。

「景気が過熱してインフレを抑える」とおっしゃいますが、そもそもインターバンク市場の金利を上下させてもインフレを防ぐ効果がありません。

そのストーリーこそが、金融エリートを利し労働運動を潰す口実になってきた、というのがミッチェルらの理解です。

いかがでしょうか。
このような対話を始められたら(できれば公開で)、とても生産的なものとなるとおもうのですが。
お返事お待ちしています。
nyun

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Letter from Matsuo -01


にゅんさんおメールありがとうございます。

解説ありがとうございます。

MMTは設備投資などの支出が市場金利に感応しないと主張しているのかと思いましたが、インターバンク市場の金利を動かしても市場金利が動かないというのは、また別の論点だと思います。MMTはこの両方を主張しているということでしょうか。

ところで、ちょうど今疑問に思っていたことがあるので、いい機会なのでお尋ねしたいです。

私は、MMTの理解する赤字財政支出は、まず政府支出があって、それによって市中銀行の負債側に支出先業者の預金が作られる一方で、資産側に準備預金が同額作られて、それが超過準備になって政策金利がゼロに向かうので、あとで政府が発行する国債を市中銀行が買って金利が戻されるというものだと解釈していました。
なので中野剛志さんのこれ
https://pbs.twimg.com/media/D6gYArxUcAA4KpO.jpg
は、最初に国債で資金調達がされて市中銀行の準備預金が政府に移るので、あとで政府支出のときに市中銀行にできる準備預金はもとのが戻ってきただけなので、最初が超過準備でなければ最後も超過準備ではなくて、金利がゼロに向かったりはしない(それどころか、預金が増えた分法定準備の必要額も増えて金利が上がる)。だからMMTの解説としてはおかしいと思っていました。

しかし、このほどレイさんの邦訳の207ページからの3.7節を仔細に検討すると、やはり中野さんの説明と同じになっているように感じられました。例えば10億円の政府支出をするときにはこんなふうになると思います。市中銀行の準備預金の増減に焦点をあてています。

売り戻し条件付き買いオペに応じて中央銀行に国債を売る +1億
政府から国債を買う -1億 差し引きゼロ
政府が租税口座に資金を送る +1億 (租税口座に+1億)
売り戻し条件付き買いオペで中央銀行に売った国債を買い戻す -1億 差し引きゼロ
政府が租税口座から資金を回収する -1億 (租税口座-1億で差し引きゼロ)
政府支出の結果準備預金が増える +1億 差し引きゼロ (預金が+1億)

結局この場合も赤字財政支出によって超過準備が増えて政策金利が下がるというふうにはなっていないように思えます。どうなんでしょうか。

ミッチェルさんの回答記事の4つ目この問題を取り上げているようですが、苦手な英語の斜め読みなので私の英語力がないだけなのかもしれませんが、はっきりとした答えはわかりませんでした。今時間を見てじっくり読み返していますが。

松尾匡
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Letter from Nyun -02

松尾様

早速の返答嬉しく思います。
私の目的は、プログレッシブレフトの国際的連帯のために、薔薇のみなさんにMMTの理解を広げることだけですので、どうぞよろしくお願いいたします。

私からの問いかけを
①MMTの考えでは、インターバンク金利(政策金利)を上下させることに良い結果は期待できない、
松尾さんからの問いを
②MMTのいう「赤字財政支出によって政策金利は下がる」は現実とあわないのでは?
といたします。

まず①

(松尾メール引用)
①MMTは設備投資などの支出が市場金利に感応しないと主張しているのかと思いましたが、インターバンク市場の金利を動かしても市場金利が動かないというのは、また別の論点だと思います。MMTはこの両方を主張しているということでしょうか。

どうも誤解があるようです。
A「MMTは設備投資などの支出が市場金利に感応しないと主張している」も
B「インターバンク市場の金利を動かしても市場金利が動かない」も
どちらもMMTの主張とは言えないからです。

Aで言えば、たしかに市場金利の動向は、借り入れを起こして投資をしようという企業にとっては判断のための一つの要素です。しかし、投資の意思決定は他のさまざま要素の影響を強く受けます。とくに収益期待でしょう。また、キャッシュリッチで借り入れの必要のない企業には関係のない話です(※編集後記で修正あり)
また、投資意欲が旺盛なとき(リターンが期待できるとき)には市場金利が高くなるという逆のメカニズムに注目してほしいと思います。

Bですが、MMTは政策金利(インターバンク金利)を動かしても効果は期待できない、逆効果である、意味がない、とは言いますが、市場金利が動かないとは言いません。大抵の場合は連動するのではないでしょうか。しかし、Aのような理由で、それが良い効果をもたらすとはまったく考えない、というわけです。

というわけで、どちらも主張してない、ということになります。

②に参ります。

結局のところ、
C「赤字財政支出によって超過準備が増えて政策金利が下がる」
というMMTでよく言われるテーゼが現実と違うのでは?というご疑問と言えると思います。
レイの教科書でも、中野の解説にしても、政策金利は不変ではないかということですね。

たしかにMMTはCの言い方を時々するのですが、ミッチェルはしばしば「この言い方は誤解を招く」と言っています。

答えは、「財政支出の振込は、民間の準備預金増やすのでインターバンク市場レートの下方圧力になっている」というだけのことなのです。
レイ3.7節では、最後のFで振り込みが行われます。これは銀行振り込みの場合。
中野さんの図の場合は⑤の取引です。

テーゼCに囚われず、次のように理解するとよいです。
まず、中央銀行と財務省は、常に連携して政策金利を一定に保とうとしています。

中央銀行単独では、たとえば大連休前に現金引き出しが多くなる(準備預金減。金利上昇圧力)ことを見越して、カウンターの国債買いオペでで準備預金を供給します。納税(準備預金厳)が集中する日も同じことをします。
反対のケースが財政支出で、財政支出(日本の場合、政府預金から民間銀行の日銀当座への振替)によって準備預金が増える。これは銀行間金利の下方圧力です。新規国債の発行は、民間銀行の準備預金を減らしますから金利の上方圧力であることから、このカウンターに相当しますねと言っているのです。

こんな風に言います。「赤字財政支出のための国債発行は財源ではなく、統合政府によるインターバンク市場の金利維持活動の一環であると」と。

ですので、取引全体を見ると(レイ本ではA~F、中野さん図で①-⑤)インターバンク市場金利は不変になっている。むしろそうなるように頑張っているのが一連の取引全体なんですね。

いかがでしょうか。

Nyun
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Letter from Matsuo -02

 
にゅんさま
ご回答ありがとうございます。

私も、MMTは政策金利と市場金利が連動する前提で話をしているのだろうと思っていましたので、最初のおメールの説明を誤読して驚きました。そうではないとわかって納得しました。
市場金利による設備投資などへの影響については、感応度が大きいならば他の多くの要因を差し置いて金融政策は効果を持つことになると思いますので、感応しないとは言わないまでも、他のいくつもの要因に比して感応度が小さく、むしろ政策が望むのとは逆の効果を持つリスクがあるというご主張と理解しております。
これについては異論はありますが、とりあえずご主張に対する認識が間違っていたらご指摘ください。

②の話ですが、実はおうかがいしたいのは、テーゼCが現実にあっていないのではということが主眼ではありません。
ミッチェルさんは政策金利ゼロを主張されていると理解しています。だとすると、超過準備を吸収しないように、「財源」という形をとるために国債が出されたならば、すべて日銀が買い取るということになると思います。そもそも、国債をなくして直接準備預金増を市中銀行の資産側に入れて政府支出することが希求されているのだと理解しています。
これはデフレ不況下では、実践的には私の主張と全く同じになります。
しかし、中野さんの影響を受けた議論では、国債を市中引受けすることにこだわっているように感じられ、中央銀行が準備預金を出さないことが、リフレ派との違いのポイントと認識されているように思います。だからゼロ金利の維持には反対しそうな気がしますし、国債をなくして云々という発想はとうていでてこないように感じます。
以上はよろしいでしょうか。

その上で、中野さんたちがこうした考え方をする論拠が、政府支出に先立って国債の発行で財源を作る図式であると思ったわけです。この場合、赤字財政支出によって超過準備が増えて政策金利が下がるという、MMTからよく聞かされることになっていないので。
ところが、レイさんの本を見ると、結局中野さんと同じになっているじゃないかと思って疑問に思ったわけです。

ご説明を読むと、政府支出に先立って国債の発行をするかどうかということは、あまりこの問題と関係のないことだったのかという気にもなりましたが、実際のところどうなのでしょうか。
なお、私自身はこのこと(政府支出に先立って「財源」のために国債を発行する形式をとるかどうか)は、本質には関係のないことだと思っています。

松尾匡
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メールのやり取りはここまで。

レター第1章 編集後記

大石:
なかなか面白いことがはじまりましたね。初回メールの印象は、どうでしたか?

にゅんさん:
「おメール」には面食らったワン。

松尾さん:

「おメール」自分ではごく自然ですけど。もっとも、日本語は、よほど日本に長くいないと活用させない、「サボる」「ダブる」はいまだに二級市民扱いにするという、排外主義的なところがあるので、「お」も似たところがあるかもしれません。それを思えば、あえて抵抗するのもいいかも。

ちょっと意味がわからないですけど(笑)、面白いので連載タイトルに使うことにしました。

あと、補足で。nyun-02のレター内で、「また、キャッシュリッチで借り入れの必要のない企業には関係のない話です。」としましたが、ここは「関係ない」というよりは、「政策の意図とは逆の作用をもたらし得る」とすべきでした。キャッシュリッチな主体は金利が上がればむしろ投資を増やすと考えられます。

「市場金利が下がったら設備投資が増える」とはむしろ逆の投資行動があるとおっしゃっているのですね。

第1章の今回は、インターバンク金利(政策金利)を上下させる金融政策の是非についてのやり取りでした。MMTは、金融政策は無意味だったり、他の意図があったり、それそのものの弊害があるので良くないと考える、ということでした。

次回の第2章では、MMTの、国債を市場に出す(民間企業に買わせる)ことそのものを問題とする考えについてのやり取りとなります。次回をお楽しみに。(END)

他に参考になるMMT関連資料

・市場金利と投資の関係性についてのミッチェル教授の回答「日本式Q&A – Part 1」(2019年11月4日)(日本語訳ブログ記事リンク)

・金融政策を解説したにゅんさんのブログ MMTレンズを身に着けよう!その3:「財政に従属する金融政策」とは(ブログ記事リンク)

 

このページの作成者:大石