7月17日 薔薇マーク共催・ケルトン講演「見どころは?」

7月17日 薔薇マーク共催・ケルトン講演「見どころは?」

ついに明日!
2019年7月17日に、薔薇マークキャンペーンも共催して(詳細は末尾)、MMTで話題のステファニー・ケルトン教授を招いた研究会を開催します。
小さな会場だったこともあり、メディア関係者や経済専門家を招いてすでに満席、申し訳ない!
せめて、事前や事後に、この研究会の意義を少しづつお届けしたいと思います。

まずは、7月17日研究会でコーディネーターを務める代表・松尾匡に、事務局長・西郷南海子と、スタッフ・大石あきこが、その見どころを聞きました。

7月17日に薔薇マーク共催で、ケルトンさん研究会開催!

大石
「ケルトン教授は、MMT(Modern Monetary Theory/現代貨幣理論)の提唱者として、日本でもむちゃ話題の、インフルエンサーだよね。ついに17日にお目見えです。」

西郷
「薔薇マークキャンペーンとして共催させていただけたことは、うれしいですよね。MMTの話題は、日本では、どっちかというと自民党系の方々がけん引しているようなところがあって、しかも震源地は松尾さんや私のいる京都!(笑)」

大石
「アメリカで最年少国会議員になって一躍有名になったオカシオ=コルテスさんが『MMTの考えがもっと広がるべき』と言って、日本でもMMTに火がついたんですが、オカシオ=コルテスさんは『民主的社会主義者』を自称する、いわゆる急進左派ですよね。」

西郷
「ケルトン教授だって、2016年のバーニー・サンダースさんの大統領選挙の際に経済顧問をつとめたり、サンダースさんの『子どもたちを戦場に送るな!大学に送れ!』をリツイートしたり、反戦や左派的な立場に近い人のはず。」

大石
「そうであれば、日本でも、安定した雇用や社会保障を求めてきた左派こそが議論をリードしたい。」

西郷
「17日は成功させたいですねー!」

大石
「ところで、松尾さんはMMTなんでしたっけ?」

松尾
「いえ、自分はMMTというわけではない。」

大石
「なにが気に入らないんですか?(笑)」

松尾
「僕はマクロ経済学理論に関してはニューケインジアン左派を自称していまして。他にも、反緊縮の経済理論には『信用創造廃止論』もあります。当事者には違いばかり強調する傾向もあります。でも、大事なことは、これらの理論には、確かに違いがあるのですが、その違いは大したものではなくて、むしろ共通項がたくさんあるんです。17日の研究会ではそれを示したいところです。」

大石
「それが真の見どころですね。」

 

『反緊縮左派』って?

大石
「17日に向けて、ケルトンさんや、サンダースさんの政策を知るためにも、『反緊縮左派』 について教えてください。」

松尾
「欧米で勢いを増してきている『反緊縮左派』の人たちは、『財政危機論』、つまり『政府にお金がない』を新自由主義のプロパガンダとみなしています。『お金がない』を口実にして財政を引き締める『緊縮』に反対しているんですね。」

西郷
「日本でも、『お金がない』を口実にして、社会保障をなくしたり、消費税を上げたり、民営化を推進している現状があります。」

松尾
「『反緊縮左派』は、財政緊縮反対を政策の柱にしています。そして、逆に、『お金はあるのだ』と、財政を拡大することを提唱します。例えば、医療保障、教育の無償化、社会保障の充実などの社会サービスの拡充をうったえます。」

大石
「日本でも野党中心に、社会サービス拡充のうったえは、していますよね。」

松尾
「はい、『反緊縮』の考えは、①財源論に特徴があるのと、さらに、②財政の拡大で景気を刺激することで、雇用を拡大するところまで含んでいます。」

大石
「もう少し詳しく聞きたいです。」

 

【① 財源論】

松尾
「反緊縮左派の財源論としては、まずは、大企業や富裕層の負担になる増税を提唱しています。でも、それだけではなくて、中央銀行にお金を作らせるという、いわゆる『財政ファイナンス』を肯定していることが特徴です。」

大石
「格差をなくせ、搾取した富を人々の側に戻せ、という主張に加えて、政府が必要とする財源について、『なんやったら、中央銀行がお金作れるやろ』と口出しするってことでしょうか。MMTと、ニューケインジアン左派とで、財源論に何か違いはあるんでしょうか?」

松尾
「いずれも中央銀行にお金を作らせることを肯定しているのですが、僕は、政府支出の『財源として国債を発行する』と言う場面があっていいと思いますが、MMTでは、『国債が財源』という言い回しは否定されているようです。でも、薔薇マークキャンペーン呼びかけ人の朴教授が、ランダル・レイ著『「 Modern Money Theory」の要点』を公表(リンクページ)

しましたが、そのレイさんは、政府支出に先立って国債発行で財源を調達しなければならない制約をつけても結局は同じだという指摘もしていて。だから、本質がわかっていれば形態にこだわることもないんじゃないかと思うのですが。そのあたりをケルトン教授には17日に聞いてみたいですね。」

西郷
「共通点は、どういったものですか?」

松尾
お金を作り出せる権限のある国の政府は、財政破たんのリスクは無く、ただ、お金を作り出すことによってインフレ(お金の価値が低くなる)が悪化しすぎないようにすることが必要だという認識が共通です。
かつ、今は失業者がいる、不完全雇用の状況ですので、この状況下では、お金を作り出してもインフレは悪化しません。そんな認識は共通なんだと思います。
他にも、税金の捉え方にも共通点があります。」

大石
「ここも、17日の見どころポイント、ですね。」

 

【② 財政の拡大で景気を刺激することで、雇用を拡大する】

西郷
「『反緊縮』左派の考えとして、財政の拡大で景気を刺激することで、雇用を拡大するところまで含んでいるのも特徴だと、おっしゃいました。」

大石
「『景気』って、響きが、大企業とかゼネコンとか資産家だけ儲かったり、バブルで一時的なものだったり、そんなイメージがあるから。私もいまだに違和感があります(笑)
でも松尾さんが『経済政策によって人は死ぬんだ』ということを、いろんな場でしつこく言っていて(例えば松尾botのあるツイート(リンクページ))、お金持ちのための景気ではなく、人々のまっとうな雇用とか生活向上の意味で、『景気回復』を国の責任として求めているのだろうと思いますね。『平和』を唱えるのと同じような感じで。」

西郷
薔薇マークキャンペーンでも、『反緊縮』の立場から、先日の年金『老後資金2000万円不足』騒動を受けての声明(リンクページ)を出しましたが、国に年金を保証しろと求めることは当然として、『2000万円の貯蓄が要ると公に言うこと自体が、さらにお金を貯蓄に回す状況を生み、景気が悪くなる』なんて視点を入れていて、自分たちで言うのもなんですが、新しい。」

松尾
「消費税増税についても、格差を拡大させる税制だということで当然反対なのですが、『景気が悪くなる』という視点でも反対しています。よろしければ、最近の景気動向に関する資料(リンクページ)を公表したのでご覧ください。」

大石
7月21日投開票の参院選の最大の焦点が、“消費税”と“年金”です。反緊縮の視点からの有権者の選択が広がればいいですね。」

大石
雇用については、MMTを提唱するケルトン教授はどんな考えなんでしょうか。」

松尾
「ケルトン教授が経済顧問を務めたバーニー・サンダースさんの選挙戦では、5年間にわたる1兆ドル(100兆円以上)の公共投資で、老朽化した道路、橋、鉄道、空港、公共交通システム、港湾、ダム、下水道などのインフラ整備を行い、1300万人の雇用を作り出すという公約を掲げていましたね。また、若者に職を創出するためのプログラムに55億ドルを投資し、100万人の若者に雇用を生み出すと言っていました。」

大石
「スケールでか!」

松尾
「さらには、同じ流れで、オカシオ=コルテスさんの目玉政策、『雇用保障プログラム(JGP)』は、働きたくても仕事が見つからないすべての人に、政府が雇用を保障するというもの。これは、雇用保障だけではなくて、景気の状況に応じて政府支出を自動調整して景気過熱を抑制できるというシステムになっていて、西郷さんのいう『新しい』左派の要素であり、大石さんのいう『人々のための景気回復』の視点ですね。これでうまくいくかどうかは議論の余地がありますが。」

大石
「これまでであれば、右も左も荒唐無稽だなんて言っていただろう理屈が、今、アメリカ全土を騒がせ、日本でもマスメディアや、それこそ右の自民党の内部からももてはやされるようになってきたんですね。」

松尾
「ちなみに、オカシオ=コルテスさんは、『グリーン・ニューディール』のために超富裕層にも課税すると言っていて、最高70%の課税をすると示唆して保守派の怒りを買っていました。」

大石
「そういうとこ左派ですね(笑)」

松尾
「より詳しいことは、僕が5月24日に寄稿した東洋経済オンラインの記事『「MMT」や「反緊縮論」が世界を動かしている背景 -AOC、コービン、欧米左派を支える主要3潮流』(リンクページ)に書いています。無料で読めます。」

松尾
「それから、17日の研究会では、先ほど出てきた雇用保障プログラム(JGP)がいいのか、所得保障(ベーシックインカム/BI)がいいのか、という討論も行われる予定です。」

大石
「見どころですね!」

 

MMTとニューケインジアン左派の違い?

大石
「聞いてもわからない気もしますが、あえての、MMTと松尾さん(ニューケインジアン左派)の理論的な違いはなんでしょう。」

松尾
「まあ、違いは、実質金利による調整がどのくらい効くかの認識の違いだと思っていて。」

大石
「えーと?」

松尾
「MMTは、金利に関して設備投資があまり反応しないという考え。僕はそれに対して多少あるだろうと思うので金利調整の政策も要る、と思ってる。」
「市場メカニズムの自動調整に懐疑的な潮流としては同じなのですが、ニューケインジアンは『実質金利を下げるのは景気対策として有効だ』と思っていて、インフレ予想を操作する政策を肯定しています。それに対して、MMTの人は、あまり効かないからそういう政策を軸にしない、あくまで政府支出が基本だという考えのようです。僕は、歯止めに掲げたインフレ率まで財政のマネーファイナンスによる政府支出が許されるなら、人々がそのインフレ予想を抱くので、政府支出自体の効果に加えて実質金利が下がる効果も重なってなおさらいいという考えです。」

大石
「ふーむ。難しすぎました(笑)。松尾さんは、両者を取り入れているということでしょうか。
結果として、どちらの政策でも、安定した雇用と社会保障が充実するなら、どちらでも活用したいところです。17日の研究会で得たことを、わかりやすく発信していきたいです。」

 

終わりに

西郷
「『反緊縮』の考えとして、政府がお金を作り出せる、とか、たくさん国債発行できる、という手法だけ言うと、何のためにそれをするのか伝わらないですよね。命を絶対に守るんだというメッセージをもっと発信していきたいです。」

大石
「そうですよね。世界的に景気が低迷して、『身を切る改革』みたいな新自由主義の緊縮財政がずっと続いている。同時に、大企業がグローバルな経済バトルロワイヤルに勝ち抜くための優遇も続いて、格差が広がっていく。この状況を正当化したり、統制するのに役立つからこそ、安倍政権は、ナショナリズムや差別や自己責任論をまん延させているのだと思う。私はこの状況が許せないし、すごく危機感があります。そういう人が集まって『反緊縮』の潮流を一緒に作っていきたい。」

松尾
「そのとおりだと思います。アメリカのサンダースさんと、ギリシャのバルファキスさんが昨年末に、反緊縮の国際組織『プログレッシブ・インターナショナル』を立ち上げたのも、同じ危機感からだと思います。日本からもこの呼びかけに応える勢力が現れることが期待されますね。」

大石・西郷
「それって、松尾さんなんじゃ・・・」

松尾
「僕は研究がしたいからなあ。はっはっは。」

西郷
「バルファキスさんには、この4月に、薔薇マークキャンペーンへの応援メッセージ(リンクページ)をいただきました。
薔薇マークキャンペーンとしても、ナショナリズムに対抗する立場から、反緊縮の経済政策を掲げる左派、リベラル派の幅広い野党候補の新しい潮流を支えていきたいですね。」

松尾
「ケルトン教授の来日が、日本のプログレッシブな人々の間に、サンダースさんやオカシオ=コルテスさんといった政治潮流を支える経済理論がどのようなものか、広く知られる機会になるように願っています。」

大石
「17日の研究会の成果は、また、ホームページなどで発信していきますのでご期待ください!」

 

ケルトン教授研究会情報

緊急研究会
【MMTの経済理論をどうとらえるか〜革新的経済成長に向け、反緊縮経済政策を検証する】
※満員御礼
日時 7/17(水)13:30~16:00
会場 立命館東京キャンパス(東京駅日本橋口すぐ・サピアタワー8F)
講演 ステファニー・ケルトン(ニューヨーク州立大教授)
討論 ステファニー・ケルトン×松尾匡(立命館大学)×飯田泰之(明治大学)×井上智洋(駒澤大学)
主催 立命館大学経済学部
共催 (公)ソーシャル・サイエンス・ラボ、(社)経済学101、薔薇マークキャンペーン