コロナ禍を中小企業淘汰のチャンスとする支配層の思惑を許さず、今こそ人びとの所得を増やす対策を

感染拡大「第3波」到来にあたってのコメント

2020年12月1日
薔薇マークキャンペーン事務局

コロナ禍を中小企業淘汰のチャンスとする支配層の思惑を許さず、今こそ人びとの所得を増やす対策を

はじめに

11月に入ってから、新型コロナの新規感染者数が毎日のように過去最多を更新し、感染拡大「第3波」到来が鮮明になっています。コロナ禍の収束が見通せないまま、2020年は終わりに近づいています。中小企業・小規模事業者の経営危機はますます深刻さを増すばかりです。厚労省の調べでは、コロナ関連解雇は7万人を超えました。コロナ禍で大幅な減収を余儀なくされた事業者に対する直接支援として、持続化給付金や家賃支援給付金が行われてきました。しかし、これらの給付金は、主要にはこの春の緊急事態宣言の影響による減収を想定しており、7月以降は通常の経済活動に戻っていくことを前提とした制度であったものと思われます。夏の第2波、秋の第3波と続くなかで「持続化給付金や家賃支援給付金はもう使い切ってしまった。このままでは年を越すことができない」という悲痛な声が溢れる状況になっています。
12月上旬にまとめられる第3次補正予算案では、中小企業・小規模事業者の事業継続を支え、雇用を守るための積極的な支援が必要になるはずです。しかしながら菅政権は、中小企業・小規模事業者への支援の継続・拡充に真剣に取り組もうとしているようには見えません。持続化給付金を打ち切った上で中小企業の業態転換を促す補助金を新設することを検討しているとも報じられています(※1)。デジタル化促進などを打ち出し、これに対応できない事業者は支援の対象から外していこうという方向性が鮮明になっています。その背後には、このコロナ禍を中小企業淘汰の絶好のチャンスと位置づけようとする支配層の思惑が存在しているのです。このことを、時系列を振り返りながら見ておくことにしましょう。

時系列で振り返る支配層の中小企業淘汰への決意

3月17日に、東京財団政策研究所が「新型コロナウイルス対策をどのように進めるか?」と題した「経済政策についての共同提言」を発表しました(※2)。発起人は小林慶一郎氏、佐藤主光氏で、当初からの賛同者として土居丈朗氏、池尾和人氏、伊藤元重氏らの経済学者が名を連ねています。この提言は「雇用を確保する観点からも中小・零細企業の資金繰り支援は当面の間の緊急措置として、やむを得ない」としながらも「中小企業へ支援するのはややもすれば過度な保護になり、新陳代謝を損ないかねない」と述べ、支援の継続よりも、廃業を促進するための制度づくりの方を強調しています。ここで、中小企業を淘汰していこうという基本線が明瞭になりました。
自民党の安藤裕衆院議員は、4月に自民党幹部に粗利補償をしないと企業が潰れると訴えた際に、「これでもたない会社は潰すから」と言われたと証言しています。こうした証言を裏付けるように、5月3日には自民党の逢沢一郎衆院議員が「ゾンビ企業は市場から退場です」とツイートをしています。
5月12日には、新型コロナ対応のための「基本的対処方針等諮問委員会」に、例の小林慶一郎氏ほか4人の経済学者が加わりました。4人とも財政規律派です。
7月17日に閣議決定された「成長戦略フォローアップ」(成長戦略の具体策を示すものとして毎年まとめられているもの)からは、これまで掲げてきた「開業率が廃業率を上回る」との表現が削られました。中小企業数維持の目標を放棄するもので、廃業の増加を認める方針への転換が一層鮮明になりました。
8月28日には安倍首相が辞意表明し、後継を決めるための自民党総裁選挙が行われることになりました。総裁選に立候補した菅義偉氏は、9月6日に、中小企業の統合・再編を促進するために中小企業基本法を見直すと表明しています。これは、菅氏と親しいとされるデービッド・アトキンソン氏の持論の一つです。アトキンソン氏は、日本の生産性が低いのは小規模な企業が多すぎるせいだとして、360万社弱ある中小企業を、200万社弱に統廃合することを主張しており(※3)、その妨げとなっている中小企業基本法が「諸悪の根源」だとしています(※4)。アトキンソン氏は、コロナ禍の中でも、政府の対策費の「真水」が少ないことは、財政状況が厳しいからやむを得ないとした上で、「政府による企業支援策の対象が、生産性の低い小規模事業者に偏っている」と批判しています(※5)。また、「慢性的な赤字企業は、ただの寄生虫」と題する論考で、「小規模事業者に補助金を出す必要はない」「コロナ危機が日本最後のチャンスだ」と語ってもいます(※6)
このアトキンソン氏は、2016年に、自分が中学生時代に経験したサッチャー改革を礼賛する文章を書いています(※7)

「あの時代、まさか今のイギリスのように「欧州第2位」の経済に復活できるとは、ほとんどのイギリス人をはじめ、世界の誰も思っていませんでした。それほどサッチャー首相が断行した改革はすごかったのです。これは、別にイギリス人のお国自慢ではありません。かつて「イギリス病」と言われ、世界から「衰退していく先進国」の代表だと思われたイギリスでも、「やらなくてはいけないことをやる」という改革を断行したことで、よみがえることができたという歴史的事実を知っていただきたいのです。」

しかし、サッチャー改革の結果、イギリスは「よみがえることができた」とはとてもいえません。製造業が空洞化して衰退した代わりに金融業が盛えましたが、古くからの金融機関の多くは外資に買収されました。付加価値生産性は上がったものの格差と貧困が拡大し、普通の庶民の生業の場は破壊されてしまったというのが、サッチャー改革がもたらした結果でした。
菅氏は、9月8日の自民党総裁選の立会演説会で、最低賃金の全国的引き上げを主張しました。これも、最低賃金引き上げを中小企業淘汰の手段にしようというアトキンソン氏の持論に影響されたものと思われます。
自民党総裁に選出された菅氏は、9月16日に首相に就任しますが、その翌々日の18日には、竹中平蔵氏と懇談しています。菅氏は、小泉内閣の総務相だった竹中氏を副大臣として支えた頃から昵懇の仲だともいわれています。新設された「成長戦略会議」には、アトキンソン氏と竹中氏がメンバーに入り、10月16日に初会合が行われました。
こうした中、10月17日に行われた中曽根康弘元首相の内閣・自民党合同葬での菅首相の弔辞は注目に値します(※8)。中曽根氏は体制側にとって重要なことを多く行ったはずなのですが、菅首相の弔辞は、外交については抽象的な美辞麗句で流しつつ、内政についてはもっぱら新自由主義改革のことを、しかも具体的に詳しくあげた上で、「改革の精神を受け継ぎ、国政に全力を傾けることをお誓い申し上げて、お別れの言葉といたします。どうか安らかにお眠りください」との決意表明で締めているのです。この合同葬は、体制の中枢メンバーを集めて、故人の遺志を継ぐという形で新自由主義改革に向けての意思統一を図る決起集会のようなものであったといえます。
10月26日には、財政制度等審議会の歳出改革部会で、中小企業政策について議論されました。同部会の部会長代理は、東京財団提言の賛同者でもある土居丈郎氏で、同提言の発起人の佐藤主光氏、賛同者の池尾和人氏らもメンバーです。この日の議論では「企業の新陳代謝を促進すべきだ」との意見が相次ぎ、持続化給付金について、2021年1月15日の申請期限をもって予定通り終了すべきだとの声が大勢を占めたと報道されています。土居氏が「期限をずるずると先延ばしすると、本来はよりよく新陳代謝が促される機会が奪われてしまう」と発言し、「事業が振るわない企業の長い延命に懸念する」「人材の流動化やMM&A(合併・買収)が阻害され、経済成長につながらない」などの意見が多かったとのことです(※9)
以上のような流れを踏まえれば、コロナ禍というチャンスを逃すともう二度とスムーズに中小企業淘汰を進めることはできないとの危機意識に基づく、支配層の並々ならぬ不退転の決意が存在していることは明らかでしょう。
付け加えるならば、昨年10月に消費税率が10%へ引き上げられたことも、中小企業・小規模事業者の淘汰の役割を果たしていることを指摘しなければなりません。消費税の増税で、増税分を価格に転嫁するのが困難な事業者ほど大きな打撃を受けました。しかも、消費税はたとえ赤字であっても納税しなければならないので、このままでは多くの事業者が倒産・廃業に追い込まれてしまうことが予想されます。
もうひとつ、コロナ以前に比べて約5円も円高になっているのに放置されていることも重大です。アメリカはじめ各国が巨額の通貨をつくって財政投入している中で、日本だけが手をこまねいていれば円高はさらに進んでいくでしょう。そうなれば、輸入品との競争にさらされる中小企業や農林水産業者だけでなく、輸出向けに軽工業製品や機械、部品を作っている中小企業も直接・間接に大きな影響を受け、倒産・廃業に拍車がかかることが懸念されます。これまで日本で生産してきた様々な製品が、二度と日本で生産できなくなるかもしれません。そのことは将来に禍根を残すことになります。

「反淘汰」の大きな共闘をつくろう

第3波の様相が鮮明になり、コロナ禍の収束が見通せないまま年末・年度末を迎えようとしている中で、支配層はコロナ禍を中小企業淘汰の「最後のチャンス」(アトキンソン氏)と位置付けて、着実に攻めてきています。持続化給付金や家賃支援給付金の予定通りの終了はそれを象徴するものです。
その行きつく先は、これまで地域の経済やコミュニティを担い、人々の生業の場となってきた中小企業・小規模事業者が、もはや立ち行かなくなって一掃され、低賃金非正規雇用とスケールメリットで全国チェーン店やグローバル大企業ばかりが生き残る、荒涼とした格差社会です。
私たちは、この危険性を直視して、「反淘汰」の大きな共闘をつくっていかなければなりません。いま必要なのは、何よりもまず人々の所得を増やす経済政策です。すべての人への現金給付の拡充と、消費税の停止(ゼロパーセント)、中小事業者への直接支援、学費の免除など、私たちが5月21日に訴えた真の「コロナ」経済政策(※10)は、第3波が到来する下で、ますますその重要さを増していると確信します。
みなさん、一緒にがんばりましょう。



(※1)https://www.sankeibiz.jp/macro/news/201125/mca2011250600007-n1.htm
(※2)https://www.tkfd.or.jp/research/detail.php?id=3361
(※3)https://toyokeizai.net/articles/-/302864?page=3
(※4)https://toyokeizai.net/articles/-/305116
(※5)https://shuchi.php.co.jp/voice/detail/7751
(※6)https://president.jp/articles/-/36728?page=1
(※7)https://toyokeizai.net/articles/-/148121?page=3
(※8)https://www.yomiuri.co.jp/politics/20201018-OYT1T50009/
(※9)https://r.nikkei.com/article/DGXMZO65453980W0A021C2EE8000?s=6
(※10)https://rosemark.jp/2020/05/22/rose_state_140t/