「2月2日投開票・京都市長選ふりかえり」2020年2月29日 代表・松尾匡

2月2日投開票・京都市長選ふりかえり

2020年2月29日 薔薇マークキャンペーン代表・松尾匡

(1)2月2日投開票の京都市長選の特徴

今年2020年、2月2日投開票の京都市長選挙がありました。現職・門川大作さん(自民、公明、立民、国民民主、社民推薦)と、福山和人さん(共産、れいわ新選組、新社会推薦、緑の党京都府本部支持)、村山祥栄さん(京都党が支援)の三つ巴の戦いとなり、現職・門川大作さんが21万640票をとって四選されました。私はじめ薔薇マーク移行事務局のメンバーの何人かは、現職が進めてきた緊縮政策に代わる反緊縮の経済政策をかかげた市長候補として福山和人さんを応援する選挙運動に関わりましたが、16万1618票の得票で及びませんでした。財政再建をうったえた村山祥栄さんは9万4859票を得票しました。

福山和人さんは、二年前の京都府知事選挙にも、共産党、新社会党の推薦、緑の党京都府本部の支持で出馬し、やはり自民、公明、民進、立民、希望の党推薦の現職後継候補に挑んで44%の得票率にまで迫りました。私はこのときの福山さんの戦い方が、民衆にお金をかけて地域経済を底上げする積極的な経済政策を前面に掲げたものであることに、府知事選挙戦の間から着目し、この反緊縮の姿勢が躍進をもたらしたのだとして、その後講演や著書で取り上げてまいりました。

福山和人さんは今回の市長選挙でも、同様の経済政策を前面に打ち出す戦いをしました。中学校給食、中学校までの医療費無料化、返さなくていい奨学金、市発注事業時給1500円以上などの「すぐやるパッケージ」はじめ、庶民の生活を応援するためにお金を使い、庶民の懐を温めて地域経済を活性化させる政策が、タウンミーティングでの市民の声などをもとに掲げられました。選挙戦を通じて福山さんが訴えておられたように、一見華やかに見える京都市経済の陰では、倒産廃業の進行や非正規化、賃金所得の減少など、市民生活の疲弊が進行しています。これを解決する市政の実現は急務であるという意味だけでも、福山選挙の意義は重大でした。のみならず、こうした反緊縮の姿勢への共感から、れいわ新選組初の地方選挙推薦とボランティア参加の取り組みが起こり、共産党側からも歓迎される形で共闘が実現したことは、全国的意義を持っていたと言えるでしょう。暮らしの苦しい多くの民衆の期待を安倍自民党から奪い返すことのできる、これからの野党共闘のあり方に先鞭をつけたものと期待できるからです。

こうした福山和人さんの訴えに共感して集まった地元や全国からのボランティアスタッフの尽力は眼を見張るものでした。山本太郎さんも二度の街宣に加えて最終二日街宣に張り付きました。全国からの団体・政党関係者のご協力も多大なものがありました。深く敬意を表します。

それだけに、私たちが力及ばなかった結果には、大変残念に思います。このことについて薔薇マーク移行事務局で真摯に話し合ったことをふまえ、以下のように私なりの総括を申し上げたいと思います。

(2)福山候補の積極的な経済政策の打ち出しとれいわ新選組との結びつきの意義

まず第一には、この選挙戦の敗北は大変悔しいものではありましたが、積極的な経済政策を前面に打ち出すことの有効性を否定するものでもなく、また、新たにれいわ新選組が推薦に加わったことの有効性を否定するものでもなかったことを確認したいと思います。それは例えば、前回4年前の京都市長選で、与野党相乗りの門川現職市長に共産党の推薦で挑んだ本田久美子候補(主に安保法制問題を表に出した)は実質の一騎打ちではありましたが、今回、福山和人候補が三つ巴線にもかかわらず3万票以上を上積みしていること。また、12年前、やはり与野党相乗りの門川候補と、やはり今回と同じ村山候補が立つ中で、共産党の推薦で門川さんに951票差にまで迫った中村和雄候補(このときも経済問題を比較的表に出した)と比べても、今回の福山候補が4千票を上積みしていることからもわかります。

また、二年前の府知事選挙のときの福山和人さんの市内得票と比べると、今回の市長選挙での福山さんの得票は8千票弱減らしてはいますが、今回、もし府知事選同様の一騎打ちだったならば、福山さんは府知事選の市内得票よりずっと多く得票していたでしょう。昨年の参議院選挙において、比例代表共産党市内得票の9万6千票余、あるいは倉林明子候補の市内得票14万票余と比べてみても、今回の福山和人さんの選挙戦において票の上積みがあったことが推測されます。これは、反緊縮の経済政策を福山さんが前回府知事選から掲げ続けてきたことや、れいわ新選組の影響があったことをうかがわせるものだと私は考えております。

(3)反緊縮の候補が選挙戦を制するための課題①

その上で、反緊縮の経済政策を掲げた候補が選挙戦を制する情勢を作っていくにあたり、二点課題を指摘したいと思います。
一つ目は、無党派層、反自民党層の中における「維新的なるもの」への期待にどう対応するかということです。今回、特に私個人の反省としては、村山祥栄さんに油断していたことがあげられます。本場、大阪で、維新の会が今や「緊縮」と呼ばれることを嫌がり、事実ではないにせよ積極財政的な見せ方に舵を切っている中で、村山さんの強固な「財政再建」のスローガンと節税志向は時代遅れで民意の支持を得られないと思っていたのです。しかし、村山さんは京都市議会議員5期の実績を活かしつつ、門川市政への批判票を一定程度集める結果になりました。福山和人さんは、いずれの出口調査でも無党派層の投票の一位、京都新聞の出口調査では立民支持者の中でも一位の投票を得ており、このこと自体は福山さんの反緊縮政策の訴えが一定の支持を得ていることの表れです。ただ、府知事選挙のときは福山さんの得票は無党派層、立民支持者の過半数に及んでいたことから、今回は門川批判票の少なくない部分が村山さんに向かったことが見て取れます。

これについて、往年の維新にも言えることですが、村山さんの支持層には、財政均衡や「小さな政府」の支持者と、既存勢力への不信から斬新な勢力による打開を望む現状不満層との双方が存在し、その支持は、まだ根強いということはあります。
したがって、後者の現状打開を望む方々に、「小さな政府」は現状の打開につながらないこと、福山さんのような候補こそ斬新な勢力なのだと理解していただくための取り組みが必要です。個人的悔いとしては、村山さんの経済政策のもとで地域経済にどんな打撃があり、一般大衆がどんなデメリットを受けるかシミュレートし、わかりやすく示すことがもっとできたのではないかということがあります。

「わかりやすく示す」ことは私たち大衆運動の大きな課題です。これから一緒に作っていくことですが、私が考えているのは、一部のエスタブリッシュメント層(支配層)と、そのもとで不利益を受けている圧倒的多数の庶民との間に、キッパリとした線が存在していることを明らかにした上で、前者(支配層)を指さしてわかりやすく批判し、後者(庶民・私たち)の利益になる政策を宣伝することが有効です。このとき前者(支配層)への批判が、「ムダな開発」といった経済的繁栄への全批判ととられて一般大衆の支持を失わないようにすることが大変重要です。例えば、インバウンド依存への批判の表現に、観光関係で暮らしている多くの人々に対して、観光産業一般を否定するかのようなイメージを与えたものがなかっただろうか。あるいは、北陸新幹線の関西延伸に対して展望をもっている人々に対してどんな経済的繁栄をうったえていくか。いわば山本太郎さんのように「完全に振り切れた」反緊縮のうったえは効果的であろうと私は考えています。

私自身もそうですが、わりと古い野党側活動家は、生涯で負け戦を重ねるうちについた、「正しいこと」を言って満足して、大衆に受け入れられることを彼岸化してしまう傾向を、意識的に克服しなければなりません。また、できたばかりで上り調子のれいわ新選組も、今後そのような心理に活動家がとらわれないか注意しなければなりません。大衆を法則的存在ととらえて分析すること自体を大衆蔑視とみなした結果、「理性的説得」をしているつもりが、実際には上から目線の本当の大衆蔑視になることもあります。それでは勝利はできず悪政が続くでしょう。

私の勝手な思い込みかもしれませんが、山本太郎さんが「生きているだけで価値がある」と言っていることは、非常に哲学的意味があると思っています。今の社会体制のせいで浮かばれない人々を「がんばらないからだ」とする自己責任論への否定は、単にお金を稼げないことに対してだけではないはずです。生きていくだけでせいいっぱいで政治的なことを考える余裕のない人々に、「悪政を選んだ有権者が悪い」とするのもまた自己責任論だと理解するべきです。私たちはこれからも、常に、「生きているだけで価値がある」本当に暮らしの苦しい人々にどこまで届くことが言えたかで総括していかなければなりません。
さて、以上課題の一つ目は無党派層への浸透についてでした。

(4)反緊縮の候補が選挙戦を制するための課題②

二つ目は逆に、浮動票には限界があり、やはり自民、公明両党の組織力の強さは圧倒的だったということだと思います。
今回の選挙で福山陣営の街頭での存在感は、他の二陣営を完全に圧倒していました。他の二陣営の街宣にはほとんど人影が見当たらないのに、福山陣営の街宣では、ほとんど組織的動員なしに、多くの人々が歩道を埋め尽くしました。これはこれまで見られなかったことであり、間違いなく福山陣営の私たちの運動の成果であり、訴えが支持を受けていることの現れです。しかし他方で、それで「いける気」になって実態以上に楽観的になってしまったことがあったと思います。目に見えないところで、門川陣営の必死の組織的締め付けが確実に進行していたということです。

今回、自民党は負けるかもしれないと本当に思って本気を出したということでしょう。反共新聞広告ももちろんその現れですが、それで顰蹙(ひんしゅく)を買い、その広告に勝手に名前を使われた人が出たスキャンダルがあったこと自体、危機感を高めてより強く陣営を引き締める結果に繋がった可能性もあります。今回、投票率は前回より5%上がって京都市長選における今世紀最高を記録しましたが、それによる増加5万票が福山さんに行ったとは残念ながら言えない結果となりました。むしろ、普段の世論調査では自民党支持者よりも「支持政党なし」の方が多いのに、今回の出口調査では自民党支持者の方が多いという結果になっています(朝日新聞、選挙ドットコム等の調査)。12年前の同様の図式の市長選と比べて、共産党推薦候補も先述のとおり4千票増え、村山候補も1万票増えているのですが、門川さんは5万票増やして勝っている。組織力で投票率自体を上げたと言えるでしょう。

この熾烈な組織戦を前にした時、共産党あるいはれいわ新選組のプレゼンスを弱めるべきであったというような総括は成り立ちません。政党色を薄める発想ではなく、政党支持者をきっちり固めた上に票を積み上げるのでなければ勝てないのが現実だと考えます。

(5)若い人たちが支持する反緊縮の経済政策。この流れを止めるな。

今回、自民、公明側も持てる組織力を出し切ったと思います。しかし、他方、前回の市長選挙に比べて、門川さんの得票が4万票以上減っていることも事実であり、先の参議院選挙の自民党の西田昌司さんの得票よりも6千票減らしています。自民、公明側の組織力も確実にジリジリと落ちているのです。

そのように見た時、今回の出口調査で、比較的若い層に福山さんが支持されていることは注目すべきことです。30代では勝っているようです。18、19歳については、サンプルが少ないせいだと思いますが、福山さんへの投票が多い報道と、門川さんへの投票が多い報道があります。しかし、近年の選挙で普通見られる傾向は、年齢が若いほど自民党の支持率が高くなり、年齢が高いほど野党側の支持率が高くなるというものですが、今回の選挙結果は明らかにそれとは異なり、年齢が高いほど門川さんの支持率が高いという昭和時代のような結果になっています。前回の府知事選挙の出口調査でも10代、20代では福山さんが勝っています。また今回、政策重視で投票した人の過半数は福山さんに投票したという出口調査結果もあります。安倍自民党は、長期不況に苦しみ、再不況の到来を危惧する比較的若い層に支えられているところがありますが、京都自民党の組織力はそうした部分を十分にカバーできていないとも言えます。

それに対して、福山陣営は比較的若い層の中に、給食や子育て支援、奨学金政策などの訴えが届いている可能性があります。今回、福山陣営には、保育園児の保護者など子育て世代の人たちによる「子どもチーム」が生まれ、公園でシール投票をして語り合うなどの活動を繰り広げました。元地方紙通信員、kansaiseijiさんのnote記事では、そのほか「青年の会」や、全国福祉保育労働組合京都地方本部の若い保育士たちの活動を伝えています。
https://note.com/kansaiseiji/n/n4d0a0f8e4053

薔薇マーク移行事務局の議論で出された表現を使えば、街頭アピールはラーメンのトッピングで、今どきトッピングがよくないと選ばれることはないのですが、しかし大事なのはダシであって、ダシ作りは一人ずつこちら側を増やしていく日常的な組織づくりにあたるということです。特に、労働運動や介護や保育、教育、中小企業支援や協同組合などの現場で、緊縮政策や資本の横暴に対抗して人々の暮らしを守っていく人間関係をいかに作っていくかが重要になります。今回、共産党やれいわ新選組の支持者とさまざまな団体の関係者の間に作られた信頼関係は、これを発展させるための足がかりになると思います。これからの薔薇マーク運動もそのための一助となることをめざしたいと思っています。

(6)最後に(今後の経済情勢と消費税減税の共闘の展望)

先日のGDP速報では、昨年10-12月期の実質成長はマイナス6.3%でした。私たちが事前に警告していたとおり、消費増税は日本経済に深刻な打撃を与えています。これはコロナ騒動前の数字です。今後コロナの影響が加わり、経済は一層深刻な状況になると予想されますが、政府はすべてをコロナのせいにして消費税の影響をごまかそうとするでしょう。しかしこのことはインバウンド依存の経済の脆弱さを示すだけで、消費税を下げて豊かな内需を作る必要性をますます高めています。そもそも、台風も地震も水害も流行病も毎年のようにくるのであり、それを当然のこととして想定した上で経済が正常に動くように経済政策は選ぶべきもので、消費増税の責任を回避する言い訳にはなりません。

今度の総選挙は不況の恐怖が有権者を覆う中で行われる可能性が高いです。自民党はすべてをコロナのせいにして多少の経済政策を猛アピールするのでしょうか。維新は緊縮政党の本質を隠し積極財政に見せかけるためのアピールをすると思います。こんな中で、消費税5%への減税で足並みを揃える共産党とれいわ新選組が、今回の市長選挙を期に信頼関係を深めたことは、安倍自民党や維新にストップをかけるために大きな意義を持っていたと思います。人々の暮らしを豊かにするための政治に向け、共にがんばりましょう。

 

参考(薔薇マークキャンペーン事務局長・西郷南海子さんのメッセージ)

京都市長選の過程では、現職・門川候補の陣営による福山和人候補への「共産党」という名のレッテル貼りがありました。また、2月13日の衆院本会議では、安倍首相による日本共産党への「暴力革命」とのレッテルを用いての反共デマ宣伝があり、いずれもSNSなどで話題になり、報道がなされました。
そのことについて、京都市長選で福山和人候補の選挙母体「つなぐ京都2020」共同代表をつとめた薔薇マークキャンペーン事務局長・西郷南海子さんのメッセージが、しんぶん赤旗に掲載されましたので紹介します。
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権利と自由求め手つなぐ(西郷南海子)
京都市長選挙のさなか、新聞に大きく載った「大切な京都に共産党の市長は『NO』」の広告にはビックリしました。私がツイッターに「こんなデマ広告ってありなんですか?」と投稿したところ、リツイートが1.2万回を超える反響でした。
この広告を受けて、福山和人候補の選挙母体である「つなぐ京都2020」は、「大切な京都だから全ての市民の声を聴く市長に『YES』」という新聞広告を出しました。激励のご寄付をお送りくださった全国の皆様に心より感謝申し上げます。
歴史を振り返るならば、権利や自由を求める人々は、自分の身体と声を用いて道を切り開いてきました。20世紀初頭、イギリスの女性たちは普通選挙権を求めて実力闘争を行ないました。21世紀の今日も、香港では若者が普通選挙権を求めて空前絶後の運動を展開しています。私たちは、権力者による「暴力」のレッテル貼りをはね返し、権利と自由を求める世界の仲間と手をつなぎたいと思います。
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